初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
「あー、……まあ。お互い気持ちをぶつけ合えば、歩み出す転機となるだろう、という事だ」
「……」
娘をシェイドに引き合わせる為に醜聞を用意した手腕。つまらない噂だがリエラの為にも穏便に解消しなくてはならない。その為にはこの王子の後ろ盾が必要なのは確かである。
勿論彼の側近を務めるあの男と会わせたくはなかったが、王族相手というこちらの立場を考えれば、リエラを登城させないという選択肢は無かった。
苦々しい思いを噛み締めていると、クライド殿下はにっこりと笑みを深める。
「──まあ、その後もしリエラ嬢の縁付きが難しくなってしまうようなら、ここも空いているから」
そう言って自分の隣をポンポンと叩く姿に一瞬にして表情が抜け落ちた。ひゅっと喉が鳴ったような気がする。
……冗談ではない、この腹黒。
しかし自己犠牲すら笑顔で受け入れ楽しんでしまいそうなこの男に背筋が凍る。……もし、万が一、リエラが目の前の男を選んだら……?
「畏まりました」
気付けば頭を下げていた。
それだけは絶対に回避しなければならない。
それを見たクライド殿下は大変満足そうに頷いていた。