初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
しかしそれもまたリエラの罪悪感を掻き立てた。
視力が良いのに邪魔でしかない眼鏡を掛けさせていた。そしてその理由を作ったのは恐らく自分だと思い至れば、胸が塞いだ。
「いえ……あの、それよりすみません。急に執務室から出てきてしまって……」
勝手な振る舞いを詫び、もしかして追いかけさせてしまったのかと顔を上げれば、何故か今度は不機嫌そうにしているシェイドに竦み上がる。
(え……今度は何?)
「そんな事よりリエラ嬢の急用というのは、セドリー令息と会う為だったのですか?」
「──はい?」
そんな事よりそんな事ですか?
いや、それより何より。んなわけない。
リエラはぷるぷると首を横に振った。
「ち、違います!」
つい拳を握り意気込んだ姿がどう映ったのか。一瞬驚いた顔をした後で、シェイドはぱーっと笑みを広げた。
(う、眩しい)
思わず手を目の前に翳しそうになるのを何とか堪えて、リエラはそわそわと周囲を見回した。
先程のひと騒動もあって、ここにはチラホラと人がいる。その人たちの視線は急に現れた美青年に集中しだしているようだ。
(こんな場面に居合わせてしまうなんて……ああどうしよう。居た堪れないし、もし醜聞が増えてしまったら……)
リエラは、ささっとシェイドから一歩下がった。