初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
ぐんと高くなる視界に驚き、不安定な体勢を支えるべくシェイドの首に手を回す。
「ま、待って……あのその……」
すたすたと進む彼にそこまでしなくていいと、せめて下ろして下さいと、羞恥が滲む中で何度も申し出たものの、全く聞いて貰えなかった。
王城内の人々から奇異の目を向けられて、恥ずかしさに顔が茹で上がる。だからきっと余りの顔の赤さにリエラだと気付く人などいないに違いない、と思うようにした。
長い回廊を抜け、ようやく宮廷医の元に辿り着いた時にはリエラはぐったりしていた。そのせいで医師たちに急患と間違えられてしまい……泣きたくなった。
主な治療内容は腕の消毒。それを念入りに行うようにと真顔で指示を出すシェイドに、医師たちは呆れながらも応じてくれたのだが、リエラの心は瀕死だった。
恐らくシェイドは城内でリエラが怪我を負ったのを自分の責任と感じているのだろう。治療中、痛々しそうな顔で消毒箇所を凝視していたから。
そしてその姿にやはり申し訳なくなってしまう。
(これ以上私の事で煩わせたくないのに……)
しゅんと顔を俯けていると、何やら扉の方が騒がしくなった。
何だろう。
兄かしらと様子を覗っていると、困惑する医師たちを押し切り、一人の令嬢が入って来た。そしてその後に続く複数の令嬢たち……
(あ、あれはっ)
「ごきげんよう、シェイド様。騒ぎの後、医務室に向かうと聞いて慌てて駆けつけましたのよ?」
「──レーゼント侯爵令嬢」
ポツリと呟くシェイドにリエラはハッと息を呑んだ。