初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
ベッドに腰掛け腕に包帯を巻くリエラには目もくれず、ベリンダはシェイドの身体を確かめるようにペタペタと触る。
一応、子爵家のシェイドに侯爵家のベリンダから声を掛けるのは間違っていないけれど、婚約者でも無い相手に気安く触れるのはマナー違反だ。
シェイドはくっと眉根を寄せ、身体を後ろに引きベリンダの手から逃れた。
「怪我をしたのは私ではありません。こちらのアロット伯爵令嬢です」
そう言いながらシェイドはリエラの背にそっと手を添えた。胸がどきりと跳ねる。
けれどその様子に目を眇めたベリンダは、口元に手を添え声を張った。
「まあ! アロット伯爵令嬢と言ったら平民に婚約者を奪われた醜聞令嬢ではありませんか! いけませんわシェイド様! そんな方に近寄っては!」
リエラに向かって大袈裟に驚いた振りをして、今度はシェイドにしがみつく。
(……人をバイキン扱いしないで欲しい)
それにあなたに言われるのは心外だ。
なんて思いが頭を掠めた。