初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
「……申し訳ありません。私からは何も申し上げる事はできません」
「そんな……」
青褪めるシェイドにリエラは思い切って聞いてみた。
「……でも、ウォーカー様は私がお嫌でしたでしょう?」
そう告げればシェイドは大きく目を見開いた。
「それ、は……」
視線を彷徨わせるシェイドに小さな笑みを浮かべ、リエラは続けた。
「望まぬ相手と親しくするのは難しいですわ」
成人前の自分たちなら尚更。まだまだ貴族の矜持より己の感情に振り回されてしまう。
家が困窮している訳でも、切羽詰まった事情がある訳でもない。まだ子供な立場に甘んじているリエラたちは、そんな気負いは必要ないのだから。
それにシェイドならいくらでも好きな相手を選べるだろう。無理する必要なんてないのだ。
「ウォーカー様ならもっといい出会いがありますよ」
そうにっこりと笑えばシェイド様は驚きに固まった。──それが最後。
そしてその後。
そんな初恋の小さなトラウマを抱え、リエラはすっかり自信を無くしてしまったのだった。
だから私の結婚は父に任せる事にした。
──で、これ。
「私たちの真実の愛には、お前ごときが立ち入る隙などない!」
あれから八年。
学園卒業後、結婚どころか婚約者のいない十八歳のリエラの為にと、兄が捩じ込んだ見合いの席での事である。