初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
「シェイド様……い、今のはその……私は別に……」
「レーゼント侯爵令嬢」
動揺を見せるベリンダに、シェイドは柔らかな微笑みを向けた。
はっと頬を染めるベリンダに、シェイドはその表情を消して口を開いた。
「城内で医師の貴賤を無くしたのは、先王陛下の病状に合わせ、いつでも王族の部屋に訪れて、断りなく触れる権限が必要だったからです。また先王陛下が生涯信頼なさっていた主治医がそちらのウォム先生であり、先王陛下は医療現場に限り、彼に王族に次ぐ権限をお与えになりました。……それは身体の弱いクライド殿下にも当てはまります」
びくっとベリンダ様の身体が跳ねた。
……クライドは華奢な御方だが、それは幼少期よりの体調不良が祟っての事だ。
けれど成人して身体を鍛え、剣を振る生活に慣れた今でも、不調を訴える事はあるのだという。そしてその症状は先王陛下と酷似していた。
陛下方の体調を管理し、新たな治療法を模索するウォム医師たちの行為を、平民だからと見下す事は先王陛下のご遺志に反するし、何よりクライド殿下の婚約者候補として浅慮すぎる。
「あ、……私、は……」
「……令嬢はクライド殿下のご事情一つご理解なさっていなかったのですね」
冷めた表情のまま告げるシェイドにベリンダはひゅっと喉を鳴らした。
「ま、まさかっ、違いますわ! 私は、ただ……ただ──……」
「──知らなかったと言うのなら、婚約者候補としての資質を疑います」