初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
ベリンダは今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
貴族の血を尊び、序列を鼻に掛ける人なのに、想いを寄せる相手は別なようだ。
アッシュもそうだった。
むしろ恋愛においては惚れた方が立場が下なのだろう。ベリンダは縋るようにシェイドに手を伸ばした。
その手から目を背け、シェイドはベリンダへ拒絶を示した。
──彼はクライド殿下の側近。
今の失言はクライドへも当然届く。ベリンダはシェイドとクライド、どちらの評価も下げ、その未来を失ってしまったのだ。
ベリンダは愕然とよろめいた後、リエラにキッと向き直った。
「醜聞女のくせに!」
その有り様にシェイドはぴくりと顔を硬まらせた。
「……貴族間に広まっている件の噂は、クライド殿下自ら解消へ向けて動き出しております。これ以上喚き立てるとなれば、あなたも王族侮辱罪が適用されます」
「な、あ……っ?」
自分が侯爵の名を出したのと同じように、今度は王族の名で追い詰められては、成す術がないと理解できたようだ。ベリンダははくはくと口を開け閉めし、呆然とシェイドを見上げた。
「……もうお話は宜しいですかな、いい加減お帰り頂けますか?」
口を開けて固まるベリンダにウォム医師は苛立ちを隠せないまま出入口を指し示した。
ベリンダはシェイドとウォム医師を交互に見て、最後にリエラを睨みつけてから出口へと踵を返した。
「失礼するわ!」
けれど振り向いた先には、敗北を悟り消え去った彼女の取り巻きたちは影も形もなく。ベリンダは一瞬足を止めたものの、そのまま肩を怒らせ部屋を出ていった。