初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

02.


 ……一瞬、思わず表情が抜け落ちた。

 燻んだ金の巻き髪に淡い緑の瞳。白磁の肌に整った顔立ち。
 細身のせいか背は高く見え、役者のように舞台映えしそうな容姿が際立って見える。
 そんなお見合い相手の彼──アッシュ・セドリー伯爵令息は、今まさに舞台の上にいるような大振りの動作で滔々と語る。

 リエラが待ち合わせ場所に着くと、そこには恋人同士で、糊付けしたように張り付いた二人がいた。思わず呆然と立ち竦むリエラを睨みつけ、男の方が吐いた台詞がこれである。

(何これ……お兄様、酷くない?)

 とは言っても問題はリエラにもあった。
 リエラはサボっていたのだ。つまり婚活を。
 妙齢の令嬢たちは皆、理想の相手に自分を良く見せる為に頑張ってアピールしていた。

 好きな相手、気になる相手、高嶺だろうが孤高だろうが、唯一の花を掴みに這い上がっていく猛者たち。それがバイタリティ溢れる妙齢の令嬢たちの二つ名とも言えよう。

 何故なら貴族女性は結婚で人生が左右される程に立場が弱い。
 夫に従う事を善とされ、離婚や、不仲ですらも醜聞となるくらいだ。
 だから愛人を囲うような冷え切った仲であろうと、表向きは仲良くする夫婦が多くいる。
 つまり、結婚とは女性にとって人生を賭けた一世一代の勝負なのだ。
< 6 / 94 >

この作品をシェア

pagetop