初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
うんうんと頷くウォム医師に否定しなければならないのは分かっているが、リエラの頭は全くついていっていない。
「──ウォム先生、そういった噂の類は今のクライド殿下のお立場では慎重に取り扱うべきところですので……」
混乱するリエラの横にスッと立ち、シェイドが取りなした。
「ああ! そうですよね。失礼しました。クライド殿下から何度かアロット伯爵令嬢の話を聞いた事がありましたもので、つい気持ちが逸ってしまったようです」
にこやかに笑うウォム医師にリエラは益々混乱する。
(私の話? 何でだろう?)
「……多分父の仕事の話とか、そう言ったものだと思います。私はクライド殿下とお話ししたのは今日が初めてでしたので……」
「おや、そうなんですか?」
「ええ、はい……父は顔の広い人ですから……」
(多分……)
驚いた風のウォム医師にこくりと頷き、リエラは自分自身にもそう結論付けた。学園時代も社交の場でも、クライドとは一度も関わりを持たなかったのだ。間違いない。