初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
彼が容姿を隠すようになった責任は自分にあると、ずっと思っていた。
それが怖くて近寄れ無かったし、彼を取り巻く噂に悪意を持ったものが混じると悲しかった。
贖罪とばかりにそんな言葉を耳にする度に発言者を窘めたり、彼の良い部分をせっせとアピールしてきた。
分厚い眼鏡で隠されていたシェイドの顔。
その姿が今目の前で優しい笑みを浮かべているのを見て、リエラは思わず許しを口にしてしまっていた。
「えっ」
驚いた顔のシェイドに、けれど本来なら留めるべき言葉が止まらない。
「こ、子供の頃……私、シェイド様に酷い事を、して……しまいました」
息を呑むシェイドに、何故か言葉と一緒に涙が込み上げてきた。そんな資格はないのに……必死に涙を飲み込んで、彷徨わせていた視線を向ける。
驚きに固まるシェイドは、躊躇いがちに手を伸ばし、リエラの腕をそっと引いた。
「リエラ嬢」
その声が掠れているようで、リエラは益々不安になってしまう。ごめんなさい、ごめんなさいと謝る気持ちが増えていく。今も踏ん張っていないと足はこの場から逃げそうで、掴まれていなければ身を翻しているだろう。
そんなリエラがどう映ったのか、シェイドは穏やかに問いかけた。
「その……少しお話する時間はありますか?」
「えっ」
リエラは目を見開いた。
改めて見ればシェイドの顔は目元が少し赤らんではいたものの、その眼差しは真剣で……自分に対する嫌悪や不快の表情は浮かんでいないようだった。
けれど──
リエラは意を決して、きゅっと口元を引き結んだ。
「はい……大丈夫です」
関わりを避ける事でシェイドの気持ちから目を逸らし過ごしてきたと、今更ながらに気が付いた。
仮に叱られたり苦情を言われるのだとしても、受け止めなければならなかったのに。
リエラはぐっと拳を作りシェイドの後に続いた。