初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 そのせいかしら。
 そのせいなのかしら?
 目の前のこの惨状は??



 現実に引き戻されれば茶番はまだ続いており、二人は未だリエラに向かって真実の愛のなんたるかを叫んでいる。

(ああ、我が兄の目は節穴だった……)
 由緒ある伯爵家は、兄の代で潰れるかもしれない。

 そんな思考が頭を掠めるも、死んだ目をしたまま笑顔を貼り付け、この場をどうやり過ごそうかと思案した。

「申し訳ありませんが……!」
 大きく息を吸いこんで、リエラは目の前でがなりたてる男──セドリー伯爵令息に向かい声を張った。
 
「この縁談はセドリー伯爵家とアロット伯爵家が纏めたものですので、意に沿わぬというなら、まずお互いの家に申し開きをするべきではありませんか?」
 
 訝しげな目を向けるセドリー伯爵令息の隣には、目をうるうるさせている女性。
 さき程からつらつら話していた内容からすると、彼女は平民で、二人は運命的な出会いをして結ばれた恋人同士らしい。
 眩い金髪に海のように真っ青な瞳が美しい、愛らしい女性だ。
 更にその容姿はアッシュに飾り立てられ、きらきらと輝いている。
(確かに可愛いけれど……)
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