初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 溢れる気持ちに釣られ自然と微笑めば、離していた手が再び繋がれた。
 その感触にぴくりと反応しシェイドに視線を向ければ、俯きかけていた彼の顔が真っ赤に染まっているのが見えて驚いた。

「え? シェイド様? お顔が真っ赤です……よ?」

 熱? 風邪? ウォム医師のところに戻るべきだろうか。
 リエラはおろおろと辺りを見回したが、残念ながらどこにも人影は見えない。
 誰か呼びに行った方が良いだろうかと、繋いだ手を外そうと力を込めれば、それ以上の力で握り直された。
「あの……?」
「リエラ嬢」

 困惑に声を上げればシェイドの真剣な眼差しとかち合って思わず口を噤む。

「こんな事を言うのは厚かましいと分かっています。だけど、やり直したい。お願いだ。もしあのお茶会で俺が間違いなく振る舞えたなら、今この関係がどうなっていたのか……俺はずっとそればかり考えていた。今更なのはよく分かっている、けれどどうか、その未来を望む事を、どうか許して貰えないだろうか?」

 えっ。

 シェイドの真剣な眼差しに辛そうな切なそうな思いが滲んで見えて、リエラは喉の奥が詰まるような感覚を覚える。
「そ、れは……」

 罪悪感でしょうか?

 そんな言葉が頭を掠めては、目の前の切実な眼差しに向き合い首を横に振る。
 こんな真っ直ぐな気持ちを否定するような事を思ってはいけない。
 
「……後悔とか、罪悪感とか、そういう感情が無かった訳ではありません」
 心を見透かしたような発言と、その場で膝を突くシェイドに困惑する。
 膝を突いて未婚女性の手を取った姿は求愛のポーズだ。誰に見られるか分からないのにと内心で焦りながら、けれど視線をシェイドから逸らせられない。

「あの? 立って下さい……シェイド様……」
「立ちません。……最後まで言わせて下さい」
「で、ですが……っ」
 シェイドはそのまま手の甲に額を押し付けてきたので、リエラの鼓動は益々早まった。

「あなたに惹かれたのは、あなたが貞淑で思慮深い人だと知ったからです。あなたに会うまで俺にとって貴族女性は皆己の望みを押し付けるだけの、煩わしい存在でしかなかった。自分の思惑と違えば、飽きれば、直ぐに代わりを漁りに行く。……あなたもその内の一人だと疑わなかった」
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