初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
一度だって思った事はない。
後ろめたくて、申し訳なくて……それでも幸せになって欲しい気持ちを捨てきれないでいた。
手を握る力に導かれ、改めてシェイドに視線を向ける。
「俺は愛しています。だからどうかもう一度チャンスを下さい。もしあの時あなたと次の約束をしていたなら……その先を望む機会を、俺に下さい」
「な〜〜〜っ」
揺るぎない眼差しに息が止まりそうになる。
愛?
思わず膝から崩れ落ちた。まさかそんな台詞を誰かから告げられる日がくるとは。それもよりによってシェイドだなんて……
座り込んだ私の目線がシェイドと同じ高さになる。
それでも彼が手を握る力が緩む事は無く、真剣な瞳が揺らぐ事も無い。
「わ、私……ウォーカー様がおっしゃったような淑女じゃありません……」
慌てるリエラにシェイドは柔らかな笑顔で首肯した。
「確かに先程は大人しいだけではないとは思いましたね」
「うう……」
「でも好ましかったです。不思議ですね」
(うう……)
お互い視線を逸らせないまま。リエラは口を開いては閉じて、シェイドの揺らぐ事のない眼差しに射抜かれて、悩んだ挙句ごくりと息を呑みこんで。
「はい」
俯くように頷いた。
──だって。
こんな風に気持ちをぶつけられて躱せる程、リエラの恋愛スキルは高くない。淑女教育で習った、穏やかに微笑む余裕も根こそぎ奪われ、教育の成果は発揮できない……
リエラには蹲って何度も頷くのがやっとだった。