初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

16.


「リエラ」
「あ! お父様!」

 嬉しそうなシェイドのエスコートを受けた庭園の出口の先で、不機嫌そうな父と出会した。
 殿下とのお話は終わったのだろう。しかし表情を見るに、思ったより良い話し合いが出来なかったのだろうかと思う。
 珍しいなとリエラは首を傾げた。

 そういえばあれから随分時間が経っている。
(お兄様はどうしただろう? ……まあいいか)
 このまま父と一緒に帰れそうだなと笑顔を向けると、何故か父の顔は複雑そうで、リエラは慌ててシェイド様を紹介した。

「あの、お父様。こちらはシェイド・ウォーカー子爵令息様です。庭園を案内して頂いておりましたの」
「……知っとるよ」
 溜息混じりに口にするその返事に、シェイドの纏う空気もどことなく固い。
 そういえば自分には男性の友人もいなかったから、こういう時はどうしたらいいのか分からない。

「あの、アロット伯爵……」
 躊躇いがちに声を掛けるシェイドに、父がじろりと視線を向ける。それから面白くなさそうに顔を背けた。
「私は娘の意思を尊重する」
「……!」

 それだけ唸るように告げたと思いきや、アロット伯爵はシェイドからリエラを引ったくった。
「だが婚約者でもない男に娘を預ける気はない。娘と過ごす時間が欲しければ、正式な手順を踏んでから出直して来い」
「お、お父様?」
 婚約? 
(それは何というか……嬉しいような、気が早いような……)

 困惑するリエラを他所に、シェイドは感極まったように一瞬震え、深く頭を下げた。
「はい、後日改めてお伺い致します。その時はどうぞ、よろしくお願い致します」
「!」
「ふん!」
< 90 / 94 >

この作品をシェア

pagetop