初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

『──ついてくんな!』
 十歳の頃。デビュー未満の貴族の子女のお茶会で。
 それはリエラにとっては初めての社交デビューの日。兄レイモンドに邪険に突き放されて、リエラは途方に暮れていた。
 
 見渡しても知ってる顔はどこにもない。
 親たちは自身の社交に精を出していた。
 唯一頼りにしていた兄は、男同士の集まりに妹を連れて歩くのを恥ずかしがり置いて行ってしまった。両親に妹の面倒を見るようにと言いつけられていた筈なのに。
 
 会場にぽつんと一人取り残されて、リエラは居た堪れずに会場の端に寄った。
 する事も無く一人、楽しそうな他の子たちを眺めていると不安が込み上げてくる。ここに来るまでは楽しみにしていたのに。着るのが嬉しかった筈のドレスの裾をきゅっと握りしめた。

『どうしたの?』

 静かな声音にハッと息を詰める。
 そっと視線を向けば気遣わしそうな眼差しとぶつかって、リエラは身じろぎした。
『あ、あの……私……』
『気分が悪いの?』
 ふるふると首を横に振れば、目の前の子は優しく笑った。
『そうなの? ならそんな端っこにいないで一緒に話そう。美味しいお菓子もあるよ』
 そう言って手を引いて、その子は端で蹲っていたリエラをあっさり連れ出してくれた。

『美味しい?』
『お茶もあるよ』
『これもどうぞ』

 リエラはこくこくと頷いて、ただ食べるだけだったけれど。
 楽しそうに笑うその子の笑顔にホッとして、嬉しくて。兄に置いて行かれた時は耐えられた涙が込み上げてきそうだった。

『もう大丈夫かな?』
 お茶を飲んで一息ついて。そう問われこくりと頷けば、その子はふわりと笑顔を見せた。陽の光を受けて輝くその様に、リエラは思わず見惚れてしまった。

『あら、リエラ』
『ここにいたのね』
 そしてちょうどリエラの友達が見つかって、同時にその子も他の女の子たちに囲まれた。
『あ……』
 人垣に飲まれ背中すら見えなくなっていく。
 優しい眼差しの、笑顔がキラキラと眩しい人。
 男の子だ、と後から友人に教えて貰うまで、性別に気付かないくらい愛らしい顔立ちをしていた。服装にも気が回らなかったくらい、夢中になっていた。
 
(でも……)
 兄やその友達のような男の子は苦手だけれど。
 あの子から仲良くできるかな。
 あの子と仲良くしたい。
 その頃のリエラにはまだ異性を意識するような自覚はなくて。純粋に、仲良くなれる友人になりたかった。


(それなのに、いつの間にか……)
 赤くなる頬を押さえ、リエラはにっこりと笑った。
 父に連れられながら、こちらを見送るシェイドを振り返る。
 その時は──シェイドが来る時は言わなくてはならない。
 私もずっと、目を逸らせないくらいあなたを好きだったのだ、と。
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