冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 私の実家は『三沢旅館』という旅館を経営している。ちっぽけな旅館と父は言ったけれど、地元ではそれなりに名の知れた老舗だ。

 東京駅から新幹線で一時間ほどの距離にある国内有数の観光地としても有名な町にあり、かつては多くの文豪たちが宿泊したこともある旅館なのだが、近年では時代のニーズに合わないのか客足が激減して経営に行き詰っているのが現状。

 対する宮條家は、国内外に数多くのホテルを展開する巨大企業を経営する一族。グレースフルパレスホテルーー通称『グレパレ』といえば知らない人はいないほど有名なホテルだ。

 そんな超一流企業を経営する宮條家から突如縁談の話が舞い込んだので、普段から何事もおっとりと構えている両親もさすがに動揺しているのだろう。

 父が神妙な面持ちで口を開く。

「だが、この縁談は宮條家直々の話だ。もしも断れば失礼にあたる」
「だからってお父さんがふたつ返事で了承しちゃったのよ」

 続けて告げた母の言葉に「はぁ⁉」と素っ頓狂な声をあげてしまう。

 どうして勝手に了承しちゃうの!

「信じられない、お父さん」
「すまん、菫。そういうことだから宮條家に嫁いでくれ」

 はい、わかりました。なんて言うはずない。
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