冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 ちょうど迎えの車が到着したのだがそれには乗り込まず菫たちに向かって駆け寄り、彼女に向かって振り下ろされそうになっている男の右腕をあと少しのところで掴んで止めた。

『暴力はよくないな』

 そのまま右腕を軽くひねる。若い頃に習っていた護身術が役に立った。

 男は苦痛で顔を歪める。菫は、いきなり現れた見ず知らずの俺を見てぽかんとした顔を浮かべていた。

 腕を捻りながら俺は男に声を掛けた。

『そちらのご婦人に謝罪をしたらどうだ。俺も見ていたが、きみの不注意でぶつかっただろ』
『わかった。わかったから腕を離してくれ。折れる』

 折れるほど強く捻ってはいないのだが大袈裟なやつだ。

 離してやれば『すみませんでした』と、どこか投げやりな謝罪を残して男は逃げるように去っていった。すると、野次馬も散っていく。

『これでお荷物はすべてですか?』

 菫たちのほうに視線を戻すと、地面に落ちてしまった高齢女性の荷物を拾ってバッグに戻している彼女の姿が目に入る。

『ご親切にどうもありがとう』
『いえいえ』

 大したことはしていませんから、と高齢女性に向かって菫がにっこりと微笑みながら首を横に振った。
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