冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
まさか菫が俺の誕生日を覚えているとは思わなかった。
内心ではかなり喜んでいるのだが、それを態度に出せない俺の表情はたぶんいつも通りだ。
「欲しいものは特にない」
もともと物欲がそれほど高くはない。だから本当に欲しいものはないのだが、俺の答えを聞いた菫がわかりやすくがっかりしたような顔を見せる。
「そうですか」
とぼとぼとキッチンに戻っていく菫の後ろ姿を見つめながら、どうして俺はいつもこうなんだと自分自身に苛立ち、手でくしゃりと髪をかきあげる。
『そうやって素直にならないから、菫ちゃんに心を開いてもらえないんだろ』
悠の言葉を思い出す。だが、素直になったところで菫は俺に心を開いてはくれないだろう。なにせ初めての食事の席で、俺は彼女にはっきりと突き放されているのだから。
『三沢旅館の運命が掛かっているので、私はあなたと結婚します。でも、あなたのことを好きかと聞かれるとそうでもないし、好きになれるかもわからないけど……』
悠の縁談を横取りするくらいには菫のことが気に入っている俺とは違い、菫は俺に対してなんの感情も抱いてはいない。
この結婚だって両親に言われて渋々了承したのだということはわかっていた。