冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
キッと睨めば、父は顔の前で両手を合わせた謝罪ポーズをする。私は目の前の卓袱台を両手でバンッと叩いた。
「絶対に嫌。どうして会ったこともない人といきなり結婚しないといけないの。それに、私じゃなくてお姉ちゃんでもいいじゃない」
私には歳の離れた姉がふたりいる。長女の桜ちゃんと、次女の綾芽ちゃんだ。
三十三歳の桜ちゃんはすでに結婚して婿を取り、将来は両親から三沢旅館の経営を引き継ぐことが決まっている。だから今回の縁談は受けられないけれど、次女の綾芽ちゃんは独身の三十一歳。地元の銀行に就職をして、ひとり暮らしをしている。彼氏もいないはずだ。
まだ大学生の私よりも、綾芽ちゃんのほうが結婚相手として相応しいと思うのだけれど。
「それがな、宮條家が相手は菫がいいと言ってるんだ」
「どうして私?」
自分で言うのも悲しくなるけれど、私はいたって平凡だ。これといった特技もなければ、秀でた才能もない。
都内にあるそこそこの大学に在学中で、卒業を控える四年生だというのに十月現在まだどの企業からも内定を貰えていない落ちこぼれ。