冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「でも、やっぱりケーキはひとりで食べます。悠さんは家に上げません。弟に風邪を引いている姿を見られるのは嫌ですもんね」
「勘違いしてるな」
「え?」
ぼそっと呟いた充さんが、やれやれといったようにため息をこぼす。
私、なにか勘違いしてる?
「鈍感なのも大概にしろ。菫と話していると熱がまた上がりそうだ」
それはいけない。せっかく少し熱が下がってきたのに。私はもうなにも話さないほうがよさそうだ。
右手を口の前に持っていき、チャックを引くような動きをすると、それを見た充さんが深いため息を吐き出した。
「悠と同じことをするな。腹が立つ」
えっ、私またなにかした?
充さんが寝返りを打って私に背を向けてしまった。
よくわからないけれど、風邪でぐったりしていたときに比べると、今の充さんはだいぶ通常運転に戻っている気がする。
「なにかあったら呼んでくださいね」
充さんの背中に向かってそっと声を掛けた。それから……。
「充さん。昨日は言えなかったけど、お誕生日おめでとうございます。来年は一緒にお祝いしましょうね」
充さんが風邪を引いてしまったこともあり、今年は誕生日らしいことができなかった。来年は妻としてしっかり夫の誕生日を祝わなければ。
それよりもまずは充さんの風邪が治るよう、妻としてしっかり看病しないと。そんなことを思いながら、私はそっと寝室をあとにした。