冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

「菫のおばあさんはマナーには厳しい人だったんだろ?」

 歩きながら充さんがふと祖母の話題をあげた。

「初めて一緒に食事をしたとき、菫は食事の所作がとてもきれいだし、作法もよくわかっていた。おばあさんに教わったのか?」

 そういえば、初めて会ったときにそんな会話をした気がする。充さんも覚えていたんだ。

「うちは旅館を経営しているので両親は仕事が忙しくてあまり家にいなかったんです。姉がふたりいるけど私とは歳が離れているから、学校の勉強や部活で忙しくて相手にしてもらえなくて。だから、家にいるときは祖母といることが多かったんです」

 当時を懐かしむように話す私の言葉に、充さんはそっと耳を傾けている。

「一番下の孫の私を可愛がってくれる人だったけど、しつけには厳しい人でした。そのときだけちょっとこわかったかも」

 今なら笑って話せるけど、上手に箸を持てなかった私にスパルタ指導をする祖母は鬼のようにこわかったし、嫌いな食材を残すことは許されなかったし、玄関で靴を脱ぎ散らかすと厳しく注意をされたし、廊下を走ると説教されたし……。子供の頃は祖母の厳しい躾に涙を流す日もたくさんあった。
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