冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「大丈夫。怒ってないよ」
そうであってほしいという願いを込めながら私は男の子に答えた。
充さんはさっきからずっと黙っている。それが少し私もこわい。もしかして怒ってる?
ふと脳裏に過るのは、クレシャリーテのロビーで土下座をして謝罪する元社員の男性を見下ろす充さんの冷酷な表情。
さすがの彼もズボンにソフトクリームを付けられたからといって、小さな男の子を叱り飛ばすことはしないだろう。そう思いつつも、いっこうに口を開こうとしない充さんにヒヤヒヤしてしまう。
もしも彼が男の子を叱責するようなことがあれば、そのときは私が全力で止めなければ。
そこへ、男の子の母親がベビーカーを押しながらようやく私たちのところに到着した。
男の子に向かって「だから走っちゃだめって言ったでしょ」と注意をしたあとで、充さんのズボンがソフトクリームでべちょべちょに汚れているのを見た男の子の母親はサーっと顔を青ざめる。
「申し訳ありませんでした。どうしよう、こんなに汚れちゃって」
おろおろと頭を下げる母親と、注意されて泣いている男の子。ベビーカーの中にいるまだ首の座っていない小さな赤ちゃんまで釣られるようにギャンギャン泣き出してしまった。