冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
この状況どうすればいいの……。
「あ、あの、大丈夫ですよ。ズボンは洗えば落ちますから」
とりあえず実家に帰ったらすぐに充さんのズボンを洗おう。
ぺこぺこと頭を下げて「申し訳ありませんでした」を連呼する男の子の母親に「大丈夫ですよ」と繰り返す私。「しょうちゃんも謝りなさい」と母親に言われた男の子が泣きながら、絞り出すように声を出す。
「ごめんなさい。お兄ちゃんのズボンにソフトクリームつけちゃって」
それに対しても私が〝大丈夫だよ〟と答えてあげようとすると、それを遮るように口を開いたのは今までずっと無言だった充さんだ。
「俺のほうこそ悪かった。俺のズボンがきみの大切なソフトクリームを食べてしまったな」
……え?
私は思わず充さんに視線を向ける。クールな彼が、まさか先ほどの私の言葉を真似たようなことを言うとは思わなかった。
充さんもそんなユーモア言えるんだ。
意外な一面に驚いていると、充さんがズボンのポケットから財布を取り出して五百円玉を手に持った。それを男の子に手渡す。
「これで新しいのを買ってもらえ」
「いいの?」
困惑したように男の子が確認すると、充さんが頷いた。
「もう走るなよ」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
男の子にようやく笑顔が戻る。