冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
そんなふたりのやり取りを見ていた男の子の母親が途端に慌て出した。
「そんな、申し訳ないです。こちらこそズボンのクリーニング代を払いますので」
「必要ないです。気にしないでください」
「ですがっ……」
「それよりも息子さんに新しいソフトクリームを買ってあげてください。それでは」
くるんと背を向けた充さんが足早に歩き始める。どうやら本当にズボンのことは気にしていないようだ。
「お金まで頂いてしまっていいんでしょうか。やっぱりお返しします」
充さんが立ち去ってしまい、男の子の母親が心配そうに私を見るので「大丈夫ですよ」と笑顔を返す。
「彼も気にしていないようですし、息子さんに新しいソフトクリームを買ってあげてください」
「でも……」
「それに、返そうとしても彼はもうあんなところまで歩いていってしまいましたよ」
小さくなっていく充さんの背中に視線を送りながら、「今から追いかけるのは大変かも」と、男の子の母親に私はにこりと微笑んだ。
「本当に申し訳ありませんでした。ありがとうございます」
男の子の母親が深々と頭を下げる。それから右手で男の子と手を繋ぎ、左手でベビーカーを押しながらこの場をあとにした。
一度振り返ってから再び深々と頭を下げたのが見えたので、私も手を振ってそれに応え、彼らのことを見送った。