冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「さぁさぁ、充くん。今日はどんどん食べて飲んでいってくれ」
すでに出来上がっている父が充さんにノンアルコールビールをすすめる。このあと車の運転をして帰らないといけないため、今日の彼は飲めないのだ。
父に勧められたノンアルコールビールを「いただきます」とクールな表情で口を付ける充さんは、食事が始まってから陽気な父にずっと面倒くさい絡まれ方をされても顔色ひとつ変えずに付き合っている。
もしかしたら内心では父のことを面倒なオヤジだと思っているのかもしれないが、なにせ表情の変化がわかり辛い人なので考えていることがよくわからないのだ。
助け船を出すべきか、そのまま父とふたりで飲ませておいてもいいのか迷いながら、私は母とふたりの姉たちとの会話を楽しんでいた。
「ねぇ、菫。さっきからぜんぜん食べてないじゃない。せっかくあなたの好物のおいなりさんをたくさん作ったのに、こーんなに余ってる」
卓袱台の中心に置かれている大皿には私の好物のいなり寿司が並んでいる。
甘じょっぱいたれがたっぷり染み込んだ油揚げの中に、酸味よりも甘味の強いシャリがぎっしりと詰まった母お手製の味で、帰省するたびに大量に作ってくれる。
「さっきひとつ食べたよ。美味しかった」
「ひとつだけでしょ。いつもならペロッと全部食べちゃうのに」