冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「もう諦めろ。こんな雨の中で落として見つかるわけないだろ」
「それでも探さないと」
「外には出さない。俺はネックレスよりも菫の体のほうが大切だ」
私の体……。充さんはそう言っているけれど、彼が本当に大切なのは私のお腹にいる赤ちゃんで私ではない。彼は自分の大切な跡取りのことだけを心配しているんだ。
大切なネックレスを失くしてしまったことだけでなく、充さんから大切に思われていない事実を突き付けられた気がして涙がぶわっと溢れた。
「落ち着いたら風呂に入って温まれ。今日はもう外にでるな。わかったな」
充さんの鋭い声がリビングに響いた。たぶん彼は今とても怒っている。妊娠している身でありながら、雨の中ネックレスを探し回っていた私に対してひどく腹を立てている。
充さんが私の頭にタオルを掛けて、背を向けた。
「仕事をひとつ残してきたことを思い出した。会社に戻る」
そう言って足早にリビングを出ていく充さん。パタンと冷たく扉がしまり、続いて玄関のしまる音が聞こえた。
この状況で私を残して仕事に戻ってしまうなんて。充さんは本当に私には興味がないのだと思い知らされる。
ぽつんとリビングに残された私はネックレスを探しに行くこともできず、その場でただぽろぽろと涙を流した。