冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「でもなぁ。兄貴にバレたら怒られそう。あの人、菫ちゃんのことになるといつにも増してこわいんだよな」
「え?」
「だからやめとこうかな。あー、でも牛丼食べたい」
悠さんが頭を抱えて葛藤している。どうして充さんが私のことになるとこわいのかよくわからないけれど、悠さんが牛丼を食べたいと思うなら食べていってほしい。
「せっかくの牛肉がもったいないので一緒に食べましょうよ」
すると、少し考えてから悠さんがまるで一大決心をしたかのような緊張感を持って頷いた。
「わかった。じゃあそうするけど、お願いだから兄貴には内緒ね」
「そんなに充さんこわいですか?」
「こわい。菫ちゃんとふたりで食事をしたなんてバレたら俺はいったいどうなることか……。土下座して謝らないと許してもらえないかも」
悠さんの表情が引きつる。何気なく彼が呟いた〝土下座〟という言葉で私はふと思い出したことがあった。
「そういえば私、クレシャリーテのロビーで男性社員が充さんに土下座をしているのを見たことがあります」
充さんの恩師夫妻と食事をした日だ。
「あのときの充さんは確かにこわかったですね」
二度と俺の前に現れるな、不愉快だ。そう言ったときの充さんの冷酷な表情を思い出して体がブルっと震えてしまう。