冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
あのときの男性社員は会社をクビになって今頃どうしているのだろう。知り合いというわけではないけれど、彼のことが心配になった。
「それって五月のことだよね?」
悠さんにふと尋ねられたので「はい」と頷く。どうやら彼もその出来事を知っているような口振りだ。
「その男性社員がどうして兄貴に頭を下げたか知ってる?」
「えっと……会社をクビにされたけど、それを取り消してほしいと充さんに直談判していたのでは?」
「そう。でも、クビになったのはあの男の自業自得なんだ」
悠さんが説明してくれる。
「あの男、うちの本社の営業課長だったんだけど、ライバル社にうちが新しく建設予定のホテルの情報を横流ししてたんだよね。それが兄貴にバレて咎められた。兄貴は一度は許したんだ。でもあの男は懲りずにまた情報を流した。二度目はさすがに許しちゃいけないって副社長や役員たちの声があって、兄貴はあの男を本社から追い出したんだよ」
「そうなんですね」
なにかミスをしてしまったのだろうと思っていたけれど、まさかそんなズルいことをしていたとは。クビにされて当然だと思う。
それなのに充さんが一度は許したと聞いて、冷酷だと噂される彼にしては甘い対応だと意外に感じた。