冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 状況が呑み込めず、ぽかんと口をあけたまま呆然とする私の様子になにかを感じ取ったのか、目の前の彼――宮條充さんが静かに尋ねてきた。

「もしかしてなにも聞いていないのか。きみの結婚相手は悠ではなくて俺に変わったんだが」
「そうなんですか⁉」

 聞いてません。初耳です。どうして変わったの?

「ちょ、ちょっと待ってください」

 バッグからスマホを取り出す。両親に確認しようと電話をするけれど繋がらない。この時間帯だと仕事中なので当然だろう。迷ったけれど、旅館のフロントに電話を掛けることにした。

 プライベートなことで申し訳ないが、こちらも緊急事態なので許してほしい。

 二回の呼び出しのあとで電話に出たのは、三沢旅館に長く勤めるベテラン従業員の男性。菫ですと名乗ってから父か母に繋いでほしい旨を伝えると、どちらも大事なお客様の接客中で無理ですと断られてしまった。私は、力なく電話を切る。

 その様子を見ていた宮條さんが声を掛けてきた。

「こちらから縁談を持ち掛けておいて、急きょ相手を変えてしまい申し訳なかった。きみのご両親には三日ほど前に連絡を入れたはずなんだが、きみの今の反応を見ていると伝わっていなかったみたいだな」
「そうですね」
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