冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
名刺を手に持ったまま、思わず背筋がピンと伸びてしまう。
「は、初めまして。三沢菫と申します。えっと……実家は三沢旅館という旅館を経営しておりまして……」
「きみの自己紹介は必要ない。もう知ってる」
おそらく両親が勝手に送った私の身上書に目を通しているのだろう。「そうですか」と、私は大人しく口を閉じた。
「それに、俺たちは初めましてじゃない」
「え?」
ふと聞こえた宮條さんの声にこてんと首をかしげる。
初めてじゃない? どこかで会ったことがあるのだろうか。でも、思い当たる人物はいない。
「まぁ、それは今はどうでもいい」
宮條さんは一瞬だけ私から視線を逸らすと、どこか気まずそうにコホンと咳払いをした。
「とりあえず食事を始めよう。きみは海鮮系が苦手だと聞いたから、今日出てくる料理には代わりのものを用意してある」
「ありがとうございます」
海鮮が苦手なことまで身上書に書かれていたのだろうか。食べられないわけではないのだが配慮してくれたらしい。
えんじ色の着物姿のスタッフがすぐに料理を運んできて食事が始まる。