冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
あの夜、充さんは私のことを抱かなかった。
ショーツに手を掛けて脱がそうとした瞬間、ぽろぽろと泣いている私に気が付いて、その手を止めたのだ。
『今日はやめておく』
私の髪をそっと撫でたあと、はだけたパジャマを整えて腰紐までしっかりと結んでくれた。その仕草が丁寧で優しいから少し困惑した。
ベッドから降りた充さんは服を身に着け、『ちょっと出てくる』と言い残して部屋を出た。
彼の帰りを待ちながらいつの間にか眠ってしまった私が翌日に目を覚ますと、充さんの字でメモが残されていて、どうやらすでに仕事に出掛けたようだった。
あれから一ヶ月が経つけれど、同じベッドで眠っていても充さんが私に手を出してくることはない。跡継ぎのためにも子供が必要で、定期的に私を抱くと宣言しておきながら。
「会話もあるんでしょ。無視されたりするわけじゃなくて」
近くを通った店員にデザートを追加注文した綾芽ちゃんに尋ねられて、私は首を縦に振る。
「うん、会話は普通にあるよ。充さんから話し掛けてくることもあるし、私の話も聞いてはくれるんだけど」
「だけど?」
「充さんの言葉に棘を感じるというか、冷たいんだよね」
「それは菫の思い込みじゃないの?」
「そうかなぁ」
ストローでグラスの中の氷をぐるぐると回す。