冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
ウォーターサーバーの水をコップに注いでいる充さんの眉間に皺が寄る。
「充さんこそ帰りが早かったんですね」
予定では帰宅はだいぶ遅くなると聞いていた。
お忍びで来日する中東の国のプリンスがクレシャリーテホテルに宿泊することになり、社長である充さん自らその対応と、今夜開かれる晩餐会にも少し顔を出すと言っていたのに、彼のほうこそ随分と早い帰宅だ。
「遅いほうがよかったのか?」
卵をそっと冷蔵庫に入れていると、背後から冷たい声が返ってくる。
「俺が予定よりも早く帰宅したことで、きみになにか都合の悪いことでもあるのか」
「いえ、そういう意味では……」
「それなら早く帰ってきてもいいだろ。予定していた晩餐会が明日に変更になったんだ」
「そうですか」
私は充さんからさっと視線を逸らす。
こういうところに彼の言葉に棘を感じるのだ。私はただ『帰りが早いんですね』と口にしただけなのに。どうしてそこに別の意味が隠されていると勘ぐるのだろう。
性格がひねくれているんじゃないのかな。