冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 充さんの恩師夫妻と食事をすることが不満なのではない。私のスケジュールを当たり前のように変えられると思っているその横暴さが気に入らないのだ。

「そんなに母と出掛けたかったのか。夫である俺よりも母との約束を優先させたいと?」
「そうじゃありません。言い方というものがあるんじゃないかなと思っただけです」
「言い方? 俺がなにかきみにおかしなことを言ったのか」

 自覚ないんだ。いつも無自覚で棘のあるセリフを吐いてくるんだ。

 それに、結婚してからずっと思っていた。充さんは私のことをいつも〝きみ〟と呼ぶ。私は〝充さん〟と名前で呼んでいるのに、彼は私の名前すら呼んでくれない。

 心の中でずっと思っていた小さな不満がむくむくと大きくなり、ついにそれをぶつけてしまった。

「私の名前は〝きみ〟ではありません」
「は?」
「きみきみきみきみって。私の名前を忘れたんですか」
「おい、今はそんな話していないだろ。食事会の――」
「食事会でも恩師夫妻の前で私のことをきみと呼ぶんですか」

 充さんが黙り込む。日頃の不満をぶつけた私は、すっきりしたというよりも、ちょっと言いすぎたかなと不安になった。
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