冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「いいか。よく聞いておけ」
充さんの腕が私の顔のすぐ横を通りすぎ、背後にある冷蔵庫にドンと拳を打ち付ける。
ひぃ、こわいっ。壁ドンならぬ冷蔵庫ドン。なんて悠長なことを思っている場合ではない。
冷蔵庫に両手をついて私が逃げられないように追い込んだ充さんが高い背を屈め、怒りを滲ませた端正な顔を近付けてくる。
彼とここまで接近したのは初夜以来かもしれない。あれから充さんは私に必要以上は近付いてこなかったし、触れようともしなかった。
それなのに今の私たちはお互いの鼻と鼻がぶつかりそうなほど急接近している。
なにこれ、どういうこと?
ドキドキしている場合ではないのだけれど、さすがにこの距離の近さは男性経験のない私の鼓動をトクトクと速くしていく。
私のことをじっと見ている充さんと視線が絡み合う。すると、彼の唇がゆっくりと開いた。
「――菫」
ふと聞こえたのは、彼の声で呼ばれた私の名前。
「へ?」
目を見開き、きょとんとしてしまう。