冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「自分の妻の名前を忘れるはずないだろ」
充さんは冷蔵庫についていた手を離すと、私から素早く距離を取る。そのまま身を翻してキッチンをあとにするが、リビングを半分ほど進んだところで立ち止まった。
「来週の土曜日は着物で来てほしい。俺の恩師は日本文化が好きだから、着物だと喜んでもらえる」
それだけ伝えると、充さんは今度こそリビングをあとにした。
その瞬間、ふっと力が抜けた私は冷蔵庫に背中をつけたままその場に座り込む。
「なんだったの、今の……」
私の名前を呼ぶためだけにあんなことをしたのだろうか。あそこまでしてほしかったわけじゃなくて、日常生活の中で普通に呼んでほしかっただけなのに。
やっぱり充さんと打ち解けることなんて私にはできないのかもしれない。