冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

「――社長っ!」

 男性の声がロビーに響く。彼は充さんの前に立って、その進路を塞いだ。

 充さんの眉間に皺が寄る。

「こんなところで待ち伏せか。場所を考えろ」

 うんざりしたような深いため息をこぼす充さんに、男性はさらに一歩詰め寄った。

「クレシャリーテに社長がお見えになるという噂を耳にしたので。どうしてもお会いして謝罪がしたいと思いました」

 いきなり膝をついた男性が、両手を床について深く頭を下げる。突然の土下座を見た充さんの表情はさらに険しくなり、秘書の男性が「こんなところでなにをしているんだ。頭をあげなさい」と、焦ったように声を掛ける。

 けれど、男性は土下座を続けたまま……。

「社長、申し訳ありませんでした。この度の件、どうかお許しください」
「それは無理だ」

 充さんの冷たい声が響く。

「その件ならもうとっくに済んでいる。今さら蒸し返すな」
「ですが、社長。どうか私を会社に残らせてください。来月二人目の子供が産まれるんです。今、会社をクビになってしまったら……」
「知らん。自業自得だろ。それだけのことをきみはしたんだ。反省しているようだが、だからといってなんのお咎めもなしというわけにはいかない」
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