冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 いったいなにが起きているのだろう。

 土下座をしている男性が充さんのことを社長と呼んでいるということは、グレースフルパレスホテルグループの社員かもしれない。いや、社員だったといったほうが正しいのだろうか。

 会話から察すると、おそらく男性はなにかをやらかして会社を解雇された。それを撤回してほしくて、社長である充さんに直談判するためにここでずっと彼の到着を待ち伏せしていたのかもしれない。

 そのときふと思い出したのは、綾芽ちゃんが教えてくれた充さんのあまりよくない噂。

 気に入らない社員をクビにして、自分の意見と対立した幹部社員を容赦なく切り捨てる――。

 もしかしたらこの噂は本当なのかもしれないと、充さんと男性のやり取りをみてふと思う。

「二度と俺の前に現れるな。不愉快だ」

 充さんが吐き捨てるように告げ、その態度はいつになく冷酷だ。

 ロビー内は水を打ったように静まり返っている。

 従業員だけでなく、この場に居合わせた客までもがいったい何事かと注目していた。

 それに気づいた充さんが深く頭を下げながら「申し訳ございませんでした」と周囲の客に向けて謝罪の言葉を口にした。
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