冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
秘書の男性が土下座をしている男性の体に手を添えて起き上がるのを手伝う。
「立ってください。ここでは迷惑になります」
秘書の言葉に、男性は力が抜けたようによろよろと立ち上がった。
どんなに訴えても充さんに取り合ってもらえないと理解したのだろう。しょんぼりと肩を落とし、秘書に連れられてロビーをあとにする男性の背中を見つめながら、もしもあの男性が私だったら……と、そんなことを考えてしまう。
充さんに鋭い視線で見下ろされて、氷のような冷たい声で叱責されたら、私ならきっと泣いてしまう。
充さんを本気で怒らせるとああなってしまうんだ。
もしもこのあとの食事会で、充さんの恩師夫妻の前で良い妻らしく振る舞うことができなかったら。私もさっきの男性のように土下座をして謝らないといけないのだろうか。
こわい。こわすぎる。
ああはならないよう、充さんの逆鱗に触れないようにしなければ……。
失敗はできないのよ、菫!
両手で頬を軽くパンとたたき、食事会に向けて気持ちを引き締めた。