冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
アメリカ人のベイカー夫妻のネイティブな英語を瞬時に聞き取り、すぐに言葉を返す充さん。もはや英語圏出身なのではないかと思えるほど完璧な発音で、流暢に話している姿はさすがだ。
たまにジョークを言ったのか、充さんの話にベイカー夫妻が笑顔を見せる。
すると、充さんが私のことを夫妻に紹介したのだろう。ふたりの視線が私に注がれた。
なにか喋らないと……!
でも、いったいなにを?
日本語でならすぐに言葉が出てくるけど、アメリカ人の夫妻には伝わらないだろう。ここはやっぱり英語で話すしかない。
「ナ、ナイストゥーミートゥー」
そんなことしか言えない自分が恥ずかしい。
充さんには遥かに劣るけれど、私だって学校で習うレベルの英語なら話せるはず。それなのに、緊張しているせいか英単語がまったく頭に浮かんでこない。
なんとか捻りだしたナイストゥーミートゥーだったけれど、私の発音がよくなかったのか夫妻には伝わっていないようだ。
ちらりと隣の充さんに助け舟を求める。が、すぐにその視線を戻した。
充さんが私を睨んでいるように見えたのだ。いや、さすがに恩師夫妻の前で妻に向かって鋭い視線を向けたりはしないだろうから私の気のせいかもしれない。
それでも内心では〝まさかきみは自己紹介も英語でまともにできないのか〟と、私に呆れているに違いない。充さんの苛立つオーラがひしひしと伝わってくるようだ。