冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
一歩近づく距離



 夜の九時を迎えると、食事会はお開きとなった。

 充さんはベイカー夫妻を客室まで見送り、私はロビーに戻り彼が戻ってくるのを待つ。

 半円形のソファに座っていると、しばらくして充さんが戻ってきた。

 ベイカー先生はだいぶお酒を飲んで酔っているようだったけれど、同じくらい飲んでいた充さんは顔色ひとつ変えていない。颯爽とした足取りで、私の座っているソファまでやってくる。

「行くぞ」

 そう言って充さんが向かうのは、今さっき自分が降りてきたばかりのエレベーターホール。

 ベイカー夫妻との食事会は終わったのでマンションに帰ると思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。私は大人しく充さんの背中を追い掛けた。

 乗り込んだのは高層階専用の特別なエレベーター。結婚式の夜にもここに宿泊したから覚えている。このエレベーターはどの階にも止まることなく、最上階だけを目指して上昇していく。

 そこにあるのはクレシャリーテホテルの中でもランク上位の客室が並ぶラグジュアリーフロアだ。

 どうしてこれからそんなところに向かうのだろう。不思議に思ったまま、エレベーターが目的の階に到着した。
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