冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
私を先に降ろしたあとで充さんが降りる。
彼が向かったのはこのフロア専用のフロント。そこにいる男性スタッフに声を掛けて、なにかを受け取った。
「こっちだ」
重厚な質感の絨毯が敷かれている廊下を進む充さんの背中を追い掛ける。彼が足を止めたのは、たった一部屋しかない特別客室〝クレシャリーテスイート〟。
先ほどフロントで受け取ったのはこの部屋の鍵。クレシャリーテの客室はほとんどはカードキーなのだが、特別感を出すためラグジュアリーフロアにある客室だけはゴールドの鍵になっているのだ。
充さんが扉を開けた瞬間、煌びやかな室内の様子と開放的な大きな窓が目に飛び込んでくる。そこには美しい夜景が広がっていて、結婚式の夜に見たときと同じ景色に思わず入口で足を止めて見惚れてしまった。
「今夜はここに泊まる」
充さんが私の背中をそっと押して室内に入れると、反対の手でドアを閉める。
「えっ、泊まるって……どうして?」
自宅に帰らないのだろうか。それに、急に泊まると言われても私はなにも持ってきていない。