冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
私に興味がないはずが、結婚式の夜に私がこの客室から見える夜景に見惚れていたことを充さんは覚えていたんだ。そう思ったら、胸の中がじんわりと温かくなる。
普段はクールな態度ばかりの彼の優しさに初めて触れた気がした。
それと同時に先ほどの食事会を思い出して、申し訳ない気持ちになる。
この客室に泊まるのは食事会に付き合ってくれたお礼だと充さんは言ったけれど、私はあの場で彼の妻らしいことをなにひとつできなかった。
英語で自己紹介すらできなければ、私だけ会話にうまく入れなかったのだから、充さんの足を引っ張っただけ。きっとベイカー夫妻の私の印象はあまりよくないだろう。
「充さん、さっきはすみませんでした。私、英語が話せなくて」
「構わない。菫が英語を話せないのは想定の範囲内だ」
ぴしゃりと告げられた言葉にしょんぼりと肩を落とす。どうやら期待すらされていなかったらしい。
「俺が先生に菫を紹介したかっただけだから気にするな」
充さんがソファから立ち上がる。長い脚を進めて、クローゼットの近くに立っている私のもとへやってきた。