冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
私だって本当はもう少し英語を話せたはず。でも、直前に充さんが元社員の男性に見せた冷酷な態度がこわくて、ああならないように〝ちゃんとしないと〟という緊張感で空回ってしまった。
思い出して再び落ち込んでいると、そんな私を見つめる充さんの口もとが優しく緩む。
「菫には通訳しなかったが、食事のときにベイカー先生に言われたんだ。若くて可愛らしい奥さんをもらってきみは幸せ者だと。俺もそう思ってる」
私の髪に触れていた充さんの手が移動してそっと耳に触れた。その手つきがくすぐったくて体がピクッと跳ねてしまう。
「その着物、よく似合ってる。自分で着つけたのか」
「えっ」
着物?
「はい。子供の頃に祖母から習ったので」
「そうか」
充さんが優しく目を細めて頷いた。
「きれいだよ」
続けて告げられた言葉にドキッと心臓が大きく跳ねる。同時に、思わず目を見開いた。
聞き間違いでなければ充さんは私に『きれいだよ』と言った。結婚式のときでさえドレス姿の私を見てもなにも言わなかったのに突然どうしたのだろう。