冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 驚きからその場に固まっていると充さんの手が背中にまわり、そっと引き寄せられた。

「あ、あの……充さん?」

 突然の抱擁にどうしていいのかわからず、私の体は石のように固くなる。

 ちょうど充さんの胸の位置にある私の耳には彼の規則正しい心臓の音が聞こえる。それよりももっと速く私の心臓はバクバクと音を鳴らしていて、今にも飛び出しそうなほどだ。

 なぜ私は今、彼に抱き締められているのだろう。

 緊張しながらも大人しくじっとしていると、充さんがよりいっそう強い力で私の体を抱き締めた。そのとき、普段から彼が愛用している香水に混ざってアルコールのにおいがふわっと香る。

「……もしかして充さん。酔っていますか」
「酔ってない」

 すぐに否定の言葉が返ってくる。でも、酔っていたほうがこの状況の説明がつく。

 充さんはお酒に酔っているから、一瞬の気の迷いで私のことを抱き締めているに違いない。

 人肌でも恋しくなったのだろうか。それとも、アルコールが入ると誰彼構わず抱き着きたくなるとか?
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