冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「――菫」
唇を離した充さんが、瞳の奥に甘い熱を宿したまま私のことをじっと見つめる。
「今夜は俺を受け入れてほしい。あの日みたいにこわい思いはさせないから」
「あの日?」
初夜のときのことを言っているのだろうか。それなら、行為自体がこわくて泣いたわけじゃない。充さんが私を突き放すようなことを言うから悲しくなって泣いたのだ。
「今夜は菫を抱きたい」
充さんが私に最後の確認をする。
ここで私が首を横に振れば初夜のときのように彼はこの先の行為には進まないのだろうか。
私のことを組み敷いたままじっと見つめてくる充さんの瞳から逃げるように私はそっと視線を逸らした。
充さんは私に興味がない。初夜のときに遠回しにそう言われたし、実際にこの一ヶ月の結婚生活でも彼の態度はいつもどこか素気なかった。
でも、今夜の充さんは少しだけ私に優しい。
恩師夫妻の前で妻らしい振る舞いができなかったことを咎めることなく、食事会に付き合ったお礼としてクレシャリーテホテルの中でも最上級の部屋に再び泊まらせてくれた。私の着物姿にも触れてくれて『きれいだ』と言ってくれた。
充さんにとって私は形だけの妻。だけど、もしかしたらほんの少しは彼も私に興味を持ってくれたのだろうか。