冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「俺は仕事に行くから、起きて支度を済ませたらフロントに顔を出せ」
充さん、仕事に行っちゃうんだ。
なんとなく寂しく思って手を伸ばせば、充さんがその手を優しく握り返してくれる。そのまま私の手を自身の口もとまで持っていき、チュッというリップ音つきでキスをされた。
「――愛してるよ、菫」
優しく目を細め、愛おしそうに私を見つめる充さんにそう言われた瞬間、これは私の夢の中だと気が付いた。
現実の私はまだ眠っていて、きっと夢を見ているんだ。そうじゃないと、充さんが私に向かって『愛してる』なんて言うはずないから。
充さんの指が私の前髪をサイドに流し、おでこにそっと唇を押し当てる。
ほら、やっぱり夢だ。現実の彼はこんなに甘い態度は取らない。
おでこにあった充さんの唇が瞼、頬、鼻先の順番にキスを落としていき、最後に唇に触れた。
昨晩のような濃厚さはなく、触れるだけの優しいキスのあとで唇がそっと離れていく。どこか名残惜しそうにもう一度私の髪を優しく撫でてから、充さんがベッドから立ち上がった。
そのまま私に背を向けて歩き出した後ろ姿がドアの向こうに消えていった――。