冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
しばらくすると食事が運ばれてくる。三段のケーキスタンドにはサンドイッチ、スコーンなどが上品に盛り付けられている。ひとりで食べきるには少し多い量だ。
それでも祖母から食事を残すのは失礼だと教え込まれているため全部しっかりと食べた。
その後、再びフロントに顔を出すと、男性スタッフがわざわざ見送りに出てくれるらしい。ふたりでエレベーターを降りて一階のロビーに到着。エントランスに向かって歩き始めた、そのとき――。
「三沢⁉」
どこからか声が聞こえて私の旧姓を呼んだ。振り返ると、視線の先には見覚えのある男性が立っている。
「やっぱりそうだ。三沢じゃん」
笑顔を浮かべながらこちらに向かって走ってくるのは大学時代の同級生の坪井くんだ。彼は、私の目の前でぴたりと足を止めた。
「よぉ、久しぶり。元気だった?」
「うん。坪井くんも元気そうだね」
最後に会ったのは卒業式だから二カ月振りだ。坪井くんは明るかった髪色を黒に染め直したようで、長さもさっぱりと短くなっている。
坪井くんとは同じ学部に所属していたこともあり、友人も交えて飲み会や遊びにも出掛けたことがある。
でも、実を言うと私は彼のことが少し苦手だ。というのも坪井くんが常に彼女が絶えない遊び人だから。