冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」
他の仕事もあるだろうにわざわざ見送りに出てくれた男性スタッフにお礼を伝えてから頭を下げた。
すると彼もまた私にお辞儀を返し、それから坪井くんをちらっと見たあとで再び私に視線を戻す。
「それでは奥様。お気をつけてお帰りください」
男性スタッフはそう言うとエレベーターホールに向かって戻っていった。
「あの制服ってラグジュアリーフロアのスタッフしか着られないやつだよな」
男性スタッフの背中を見つめながら、坪井くんがぽつりと告げる。
「どうしてわかるの?」
「だって俺ここで働いてるから」
「えっ……」
ここって、クレシャリーテってこと⁉
「三沢に話さなかったか? 俺、グレースフルパレスホテルグループに就職したんだけど」
「そうなの⁉」
知らなかった。でも、そういえば大学時代、ホテルで働くのが夢だと話していたような気がする。どうやらそれを実現させたらしい。
遊び人ではあったけれど講義態度は真面目だったし、成績もよくて、教授など目上の人に対する礼儀はきちんとできている人ではあったから、就職活動もスムーズに進んだのだろう。
希望の職に就くことができて、しかもグレースフルパレスホテルグループという業界トップの一流企業に入社できたのだから、坪井くんのことを少し見直してしまう。