冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

「一ヶ月研修して、今月からクレシャリーテに配属になったんだ。夜勤終わってこれから家に帰るところ」

 坪井くんがふわぁ~と眠たそうに大きな欠伸をこぼす。

「それよりさっきの人、三沢のこと〝奥様〟って呼んでたよな」
「う、うん」
「なんでそんなふうに呼ばれ……」

 坪井くんの視線が下りていき、私の左手の位置でぴたりと止まった。その薬指にあるものの意味に気が付いたらしく、ハッと目を見開く。

「えっ⁉ 三沢って結婚してるの?」
「う、うん。実は、一ヶ月前に……」

 仲の良い同級生には卒業式の日に結婚の報告をしたけれど、坪井くんには伝えそびれていたことを思い出す。あえて話すほど親密な関係でもなかったから。

 坪井くんは私の結婚に驚いているようで、目をぱちぱちと瞬かせている。

「だから奥様って呼ばれてたのか。しかも三沢ってセレブだろ。旦那、金持ち? そうじゃないとクレシャリーテのラグジュアリーフロアの客室なんて泊まれないからな。一泊いくらすると思ってんだよ」

 坪井くんがぶつぶつと呟いている。そんな彼に伝えるべきなのだろうか。

 私の夫はグレースフルパレスホテルグループの社長だって。でも、社員である坪井くんが知ったら驚くかもしれない。
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