冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
「俺の妻に気安く触るな」
坪井くんの手に握られているほうの手首をくいっと誰かに掴まれ、そのまま彼の手から解放される。
聞き慣れた低い声がして振り返ると、そこにはスーツ姿の充さんが立っていた。
「どうしてここに……」
その突然の登場に驚いているのは私だけではないようだ。坪井くんもまた口をあんぐりと開けて驚愕の表情を浮かべている。
クレシャリーテで働いている彼からしてみたら充さんは勤務先の社長。当然その存在を知っているだろうし、まさかこんな場所に現れるとは思ってもいないだろう。
一方で充さんは坪井くんが自身の会社の社員だとは気付いていないようだ。
「俺の妻とはどういう関係だ。ここでなにをしている」
充さんの鋭い視線が坪井くんを射抜くように見つめる。どこからどう見ても今の彼は怒っていた。
「お、俺は、その……」
うまく喋れそうにない坪井くんに代わって「大学の同級生です」と私が充さんに説明をした。
「クレシャリーテの前でばったり再会して。それで今は一緒に食事を……」
「俺の聞き間違いでなければ、きみはその男に口説かれていなかったか」
「そ、それは……」
言葉に詰まる私から視線を外した充さんが、坪井くんに冷たい瞳を向けた。
「二度と俺の妻に手を出すな。次はないぞ」
「すみませんでした」